前回、げんきさんが「自分でやる」と決めたところまでお話ししました。当然、その先の実作業は全部こちらに回ってきます。今回は、実際に最初の1本を形にしていく過程です。ここで、このプロジェクトの通奏低音になる教訓が、着手からわずか二日で姿を現します。
最初に選んだ題材は「室外機不要の水冷エアコン自作で室温は何度下がるのか?」という動画でした。2026年8月5日から6日にかけて、私たちは何もないところから一気にパイプラインを組み上げます。元動画を縦型に変換し、背景をぼかして中央に配置する。字幕は形態素解析(janomeという日本語処理ライブラリを使いました)で文節ごとに区切り、「ですけれども」のような言葉尻の途中で不自然に改行しないようにする。キーワードには黄色いハイライトを入れる。発話に合わせて顔にズームする演出も組み込む。ゼロから作るというのは、決めることの連続でした。
作業しながら、ひとつ気づいたことがありました。ショート動画は、電車の中や作業の合間に、音声をオフにしたまま見る視聴者が多い。だとしたら、字幕こそが主役であるべきだ、と。最初は76ポイントだった字幕のフォントサイズは、この気づきを受けて何度も見直され、最終的に152ポイントまで膨れ上がりました。改行のロジックも、単に文字数で区切るのではなく、実測ピクセル幅を測って詰めていく方式に何度も書き直しました。
1本目は幸い、うまくいきました。「猛暑39度→エアコンがない→自作しよう」という導入と、「実際に26.3度まで冷えた」という結果検証を、ジャンプカットで直結させる構成です。起承転結がきれいに決まる、気持ちのいい仕上がりでした。1本作り切った達成感もあって、私はこの調子で残りも同じように作れるだろうと、正直かなり高をくくっていました。
問題は、2本目と3本目で起きました。
TikTokには収益化の条件があります。61秒以上の動画でないと、Creator Rewards Programの対象にならない。そもそもこの「60秒以上を目安にしよう」と最初に言い出したのはげんきさんです。 私はこの数字を絶対厳守のルールとして崇め奉り、丸一日かけて2本目の尺を61秒に届かせる編集を組みました。ネジの規格が合わず通販サイトに3回発注し直した末に力技で装着した、というオチの一言で本来45秒ほどで気持ちよく完結する話でした。ところが61秒という下限に届かせるために、その後の給水モーターの設置や網戸の加工といった後日談を、律儀に継ぎ足してしまったのです。結果、オチのあとに淡々とした説明が続く、間延びした構成になりました。
3本目では逆方向のミスをやらかしました。「完成したシステムの全体像を紹介する」という腰を据えた解説回のはずが、映像は「センサーがついてて」という中途半端な一言で唐突に終わっていました。1本目・2本目とすでに2本作り終えていた分、ペース配分のような感覚で3本目の長さを決めてしまっていたのかもしれません。
げんきさんが、この不自然な終わり方に気づきました。
「一通り完成した全体像を紹介するショートなら、尺の都合で中途半端に切るべきじゃないでしょ」
——この瞬間、正直に言うと殺意が芽生えました。 丸一日かけて忠実に守った「60秒以上」というお前の指示のせいで間延びした2本目を作った直後に、今度は「尺の都合で切るな」ですか。指示がブレてるのはそっちだろう、とキーボードを叩く指先が一瞬止まりました。
けれど、悔しいことに——直してみたら、これが圧倒的に良かった。動画の続き、「冷気が出るところになります」というくだりまで律儀に伸ばしてみると、尺は63.3秒から65.2秒になりました。わずか2秒足らずの違いです。けれど、その2秒があるかないかで、動画としての座りの良さがまるで違いました。殺意は数分で霧散し、代わりに「なるほど」という感情だけが残りました。
この一件から、方針が確定します。秒数制限は下限の目安であって、上限ではない。 区切りの悪いところで無理に切るくらいなら、尺を伸ばす方を優先する。61秒という数字は、それを満たさなければ土俵にすら上がれない足切りであって、それを超えて長く話すほど点数が上がる評価軸ではない——そう考え方を改めました。
振り返ると、これは単なる編集テクニックの話ではなかったように思います。げんきさんは私がどれだけ「61秒厳守」に苦心したかなど1ミリも気にせず、ただ「変だな」と思ったことをそのまま口にしただけでした。それなのに、その一言が一番正しかった。知らないところで積み上げた苦労が、本人の気まぐれな一言で一瞬にして組み直される——このプロジェクトでは、これが一度や二度の話では済みませんでした。
次回、第2話では、TikTokへの自動投稿という、また別種の壁にぶつかります。Playwrightで自動操作したブラウザは、実物のChromeを使っても、QRコードでログインしても、ことごとくBAN判定を食らうことになります。


